フィンランド式子供の名付け方|フィンランドで暮らしてみた|芹澤桂 - gentosha.jp

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子供はどっちみちイジメられるよ、というのが結局のところ夫婦で一致した意見だった。

そのとき、その肝心の子はまだお腹の中にいる。幸先悪いように聞こえるがほんとその通りだよなぁといまだに思い出しては、うんうん頷いている。

名前をつけるときに思うこと

 

子供の名前をどうしようかとなったときのことだ。

日本とフィンランドどっちでも使える名前がいい。あわよくば世界的にも大丈夫な、発音しやすそうな名前。

フィンランド語はざっくばらんに言うと日本語に似ている。子音と母音がたいてい交互にやってきて、ローマ字読みで読めるので日本でも通じそうな名もわりとある。

例えばフィンランドでよくある名前でアキ、というのはAkiだし、ミカとなったらMikaだ。

ただしそれらは両方男の子の名前なので少々トリッキーだ(そしてどちらも映画監督カウリスマキ兄弟の名でもある)。

日本の名前がフィンランドでは変な意味になってしまうことも多い。義父が日本の名前リストを眺めていて「カナという名は本当にあるのか」と真剣に聞いてきた。フィンランド語ではニワトリ、鶏肉、の意だ。また、名前ではないけれど歴史映画好きの義父はとある日本映画で軍人が天皇陛下のことを「閣下」と呼んでいて仰天していた。カッカ(kakka)はう○ちのことだから。

排泄物はともかくとして、あまりにも外国的な、珍しすぎる名前では将来学校でイジメられるかも、とそのうち夫が心配しだしたので、私は名前に関係なくイジメは起きるよ、と言ってやった。

髪の色や肌の色の違い、訛り、親が外国人、他の人とは違う言語を知っている、それから単に人とは違う趣味嗜好を持っているなどなど。

私も夫も子供のころ、学校でのいじめを経験している。フィンランドにだってイジメはもちろんある。

どっちみちうちの子はちょっとオタクというか変わったところがある子に育つんだろうから、名前なんてそんなに気にせずにつければいいんじゃない、というのが2人で出した結論だった。

大事なのはいじめられないように細心の注意を払うんじゃなく、いじめられたときにどう切り抜けるか教えることなんじゃないかな、と。そして幸運なことに私たちは経験をもとに話ができるはず。

そうやっていじめに対する心配が消えたら候補を絞って、更にミドルネームを決め、それからそれらの「名前の日」を確認した。

名前カレンダーなるものがある

欧州の一部の国には名前カレンダーというものが存在する。

フィンランドでは普通のカレンダーに「今日はこの名前の日」というのが小さく書かれていて、自分の名前の日だとおめでとうと言われたり、子供の時は親がケーキを焼いてくれたり、ささやかにお祝いする。

それが外国の名前だと当然名前の日が存在しないので、そのカレンダーに載っている名前を選んでつけるのが主流だという。

それじゃあみんな同じ名前になっちゃうじゃん、と珍しい名前を与えられた私はつまらなく思う。そんなカタログから選ぶみたいな決め方なんて、と。

それでもカレンダーに印刷はされていないけど公式にフィンランドの名前で、名前の日もある、というような場合もあるらしい。

実際私たちが子供につけたのも、そういう、今はメジャーじゃないけれどフィンランド人だとわかってもらえるような名前だ。

ミドルネームはもっと簡単だった。

つけてもつけなくてもいいのだけれど、日本の戸籍にはミドルネーム表記は認められていないので、フィンランドのみで通用する名前でいいんじゃない、となり、先祖由来の名前をもらうことにした。

ちなみにミドルネームはふたつまでつけることができるし、更に「ティモーアルベルト」などとふたつの名前をくっつけてひとつとカウントすることもできる。

ファーストネームが嫌なら普段からミドルネームを名乗ることもできるらしいので、けっこう自由だなぁと思う。

名付け手続きあれこれ

自由といえば、フィンランドでは名前の届出は生後3ヶ月以内に済ませればいい。日本の生後2週間と比べるとずいぶん猶予がある。

国教(=国の宗教)というものが今の時代になってもまだ定められている珍しい国フィンランドは、キリスト教徒は全人口の約7割、これでも外国人が入ってきたことによってここ数年で減ったほど、クリスチャンな国だ。

クリスチャンの人々は子供が生まれたら洗礼式というのをやる。教会で赤ん坊の頭に水をばちゃばちゃかけるやつ、といえばピンと来る人もいるのではないだろうか。

名付け親、洗礼親という名の立会人を両親の知人などから選び、一家も揃って立ち会う大事な儀式だ。名前もこの式で発表となるまでは秘密のままにするのが伝統で、それゆえに3ヶ月も期間があるのだ。なんせ子供が無事に産まれないと日時のアレンジもできないし、教会の予約もすんなりとれるかわからない。

儀式のあとはみんなでケーキや北欧名物サンドウィッチケーキ、焼き菓子などを囲みお茶をする。

我が家の場合は教会に属してはいないので、身内一同とごくごく親しい友人一家、それから名付け親になる友人を呼んで、子供が生後1ヶ月を過ぎた頃に自宅で名付けパーティーをした。

名付け親は洗礼式に立ち会うだけでなく、親に何かあった時に面倒を見てくれる人という役割も果たしている。うちは宗教に関係なく、末長くお付き合いしたい、子供に私たちにはない知恵を授けてくれそうな博識の友人にお願いすることにした。

このパーティーも、自分で用意するのが大変ならレストランなどを借りきることもできるし、ケーキ屋でそれ専用の、赤ちゃんの名前を書いたケーキを注文することもできる。それだけメジャーなイベントだ。

(手作りパーティ。焼き菓子多め)
(ケーキに載っていたデコレーション。
食べられない)

このパーティーと並行して、住民登録所という役所に名前の届け出をしに行く。

この役所に私が出向いたのは、結婚したとき、子供の名前を登録したときのみだ。転居その他諸々の手続きはおおかたオンラインでできる。

子供の名前も実は郵送で申請もできるので直接行く必要もないのだけれど、一応儀式的な意味で行くことにした。あとは発行された社会保障番号(日本でいうマイナンバー)で子ども手当の手続きはもちろん保育園の入園申請などすべてオンラインで済むので、子供を連れ回して役所で待たされるようなこともないのはこの国で良かったなぁとひそかに思うところだ。

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