【特別コラム】ティム・ケーヒルからの手紙「コロナ終息の時、スポーツは心の支えになる」 - Goal.com
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今、世界は先が見えない状況が続いている。今の状況がいつまで続くのか、良くなるどころか悪くなるのか、終息した後にはどうなっているのか、全くわからない。まず最初に、人々が違う形で傷ついていること、そして他の人よりもさらに難しい状況に立たされている人がいるということを認めるところから始めたいと思う。世界中で身体的に、精神的に、経済的に影響が出ている。
庭で兄弟とボールを蹴っていたころから、スポーツは私の人生の中心にあった。そして今回のようなことがあったからこそ、物事の本質が見えてきた。今、スポーツは重要なことではない。人々は体調を崩し、怯え、ストレスを抱え、愛する人を失っている。たくさんの人が経験している、人生を変えてしまうような出来事に比べれば、ボールを蹴ることは大切ではないんだ。
今はスポーツのことは後回しだ。でも、この状況が終わった後のことを考えてみたい。6週間後であろうが、6カ月後であろうが、それより先であろうが、スポーツは人々が普段の生活を取り戻すために最も重要なツールの1つになると思う。プロスポーツだけじゃなく、それぞれ違った役割がある。コロナウイルスの脅威が去った後には、グラスルーツ・スポーツも地域社会を結びつける上で重要になると思うんだ。
僕らが今置かれている状況で最も困難なことは、分断されてしまったということ。最初に国境が閉ざされ、移動が制限され、ほとんどの場合個々の家庭に分断されてしまった。一度制限された状況を経験すると、制限されたことに慣れ切ってしまう。このメンタリティにしがみつかないことが、本当に大切なんだ。そして、スポーツにはこの部分で果たすべき役割があると思う。
東京オリンピック2020に向けて、日本が世界に向けて素晴らしいスペクタクルな経験を提供する準備を続けてきたことは知っている。僕は日本でサッカーをプレーし、素晴らしい経験をしてきた。いつだって観衆と、この国を愛してきた。これだけ計画を練って、労力をつぎ込んできたイベントを延期しなければいけないことは、大きな失望感があるだろう。でも、12カ月待つ必要が生まれた今だからこそ、このイベントはさらに特別なものとなった。そして、世界中から感謝されるものになると確信している。
スポーツ最大の力は、我々の心を1つにしてくれることだ。特にオリンピックやFIFAワールドカップのような国際的なビッグイベントは、信じられないような力で世界を1つにしてくれる。僕自身、幸運なことに2004年アテネ・オリンピックと4回のワールドカップ出場を経験した。そして今、2022年ワールドカップの配信を担当するカタールの『Supreme Committee for Delivery & Legacy』のアンバサダーを務めている。
アスリートとして、この祭典では強い雰囲気を感じる。2018年のロシア大会では、モスクワの通りには世界中のファンが溢れ、一緒に祝った。その雰囲気は伝染していった。特定の国や選手を応援するために様々なグループが存在するけれど、例えばリオ五輪でウサイン・ボルトが伝説を作ったような場面を目撃すれば、世界中が1つになったような気分になるんだ。2022年カタールW杯もまさにそうなると確信しているし、こういったことが必要とされる時期が必ず来ると思っている。幸運にもいくつかのスタジアムが連帯し、我々の記憶に残るショーを開催するための準備を進めているところを見ることができた。実際に参加するにしても、テレビで見るにしても、この試練の後に来る“次の”世界的なサッカーイベントとして、FIFAワールドカップ2020は強力なシンボルだ。世界中の団結、一体感、復興のためのかけがえのないツールになるだろう。
スポーツが重要な役割を果たす2つ目のことは、グラスルーツレベルでのことだ。現状では、自分の安全を守るために、お互いに物理的な距離を取らなければならない状況にある。子供を連れて街中を走る時でも、普段は笑顔で手を振ってスキップしているような人たちとも、大きく離れなければいけない。スーパーでもそうだし、他の公共スペースでも同じだ。僕にとっては、特にこれが異質に思えるんだ。この世界は、少しフレンドリーさに欠けている。もし安全が保たれる時になったら、私多にあるこの空間をなくすために、個人個人の意識的な努力が必要になるだろう。そこで、グラスルーツが果たすべき役割に期待している。
親としては、プロを目指してプレーしても、友達と一緒にプレーしても、子供のプレーを応援することに勝ることなんかない。ゴール後のハイタッチ、試合後の握手、ママやパパとのハグ……応援は僕らの距離を縮めてくれる。僕は8年間、オーストラリアでグラスルーツのアカデミー運営に携わってきた。またカタールの『Generation Amazing』プログラムでもそうだった。世界中のスポーツや産業、メディアなど多くの分野で見られるように、健康やフィットネス、社会的責任のプログラムがオンライン化され、人々がつながりを感じ、活動的で健康的であることを維持するための役割を担っている。そんな中で、この試練の時代にあっても工夫を凝らしているのを見れたのは、素晴らしいことだった。『Generation Amazing』も同じように、インスタグラムを通じたオンラインセッションを実施している。近いうちに参加するのが楽しみだよ。
この危機の前、子供たちがこのプログラムに参加して、自信を得たり、新しいスキルを学んだり、友達を作ったり……どれだけ楽しんでいるかを見てきた。ポスト・コロナ世界では、グラスルーツ・スポーツ（地元での5人制サッカー、休み時間にボールを蹴ること、週末のクラブでのスポーツなど）が、僕らの距離を縮めるのに役立つと思うんだ。
今の状況を運良く乗り切ったとしても、もう当たり前だったことが当たり前にできなくなくる。そんなことがたくさんあると思う。多くの人と同じように、僕も地球の裏側に住んでいる両親や兄弟とは離れて暮らしている。ありがたいことに、密に連絡を取り合うことはできているよ。妻や子供たちが毎日一緒にいてくれることは、本当に慰めになっているんだ。これから、テレビで見る初めてのサッカーの試合、子供たちと一緒に公園で蹴る最初のボールは、プライスレスなものになるだろう。そしてそれは、世界中の何百万人にとってもそうなるだろう。今現在は、事情があって離れ離れな生活を余儀なくされている。でも、僕は、スポーツが我々を再び結び付けてくれると信じている。
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