赤ちゃんで世界平和を感じるワケ~メトロポリス|夜のオネエサン@文化系(幻冬舎plus) - Yahoo!ニュース
Judul : 赤ちゃんで世界平和を感じるワケ~メトロポリス|夜のオネエサン@文化系(幻冬舎plus) - Yahoo!ニュース
link : 赤ちゃんで世界平和を感じるワケ~メトロポリス|夜のオネエサン@文化系(幻冬舎plus) - Yahoo!ニュース

鈴木涼美 最近、口直しに「フルハウス」を1stシーズンから見返している。「フルハウス」は言わずと知れた30年間あらゆる国で放送されまくってきた米国の人気ホームコメディで、母が死んで父と娘3人が残されたサンフランシスコの一家に母の弟でロックンローラーのジェシーおじさんと父の親友でコメディアンのジョーイさんが越してくるところから始まる。男3人が協力しながら小賢しくて愛らしい女の子たち3人を育てるというこの恋愛以外のもので結びついた家族というアイデアは、私は晩婚化と少子化と結婚制度のアップデート、LGBTQのパートナー制度などあらゆるものを一気に解決すると思っていて、世界平和を訴える最も優れたフィクションの一つだとも思っている。 口直しと言ったのは最近米国から送られてくる映像が差別と暴力の荒々しいものだからで、プロテストの力強いニュース映像を見ていて、それが警官やレイシストによる暴力映像などに変わると私は徐にチャンネルを切り替えて「フルハウス」をつけている。生々しい現実こそ美しいとか現実を直視しなければならないとか全く思わないわけじゃないけど、私にとっては第一に自分の心の平和なので、私は反抗期の長女、おませでおしゃべりな次女、みんなのプリンセスの赤ちゃん三女のおしゃべりを聞きながら、大抵の時を過ごしている。そもそもここ数年ワタシは、肉体美のイケメンが出ているドラマ(潜在的なセックス相手)を観るより、ポルノ(具体的なセックス)を見るより、ガールズドラマ(セックスの噂話)を見るより、赤ちゃんや幼児(幸運な場合のセックスの結果)を見る方が楽しい。 「フルハウス」に逸らした視線と脳内にやや残る分断の残像の傍で、スマホなんて触ったら政権擁護派の断末魔みたいな言葉が目に入ったり、都知事がマスク越しに虚ろな目で睨んできたり、バグを起こしたトーンポリシング警察が暴言を肯定してきたりするので、気弱な私は再び「フルハウス」の世界に入る。でも平和なWASP家庭を描いたこのドラマが放映されていた90年前後、質の良い製品を作って貿易市場を席巻し、しかし恥知らずな態度で世界を横行していたのはどうやらニッポン人らしく、スーパーキュートな三女の笑顔の合間にちょこちょこかつてのジャパンが比喩的に出てきたりもするので、せっかくのユートピアで過ごす時間にもケチがつく。かと言って私の家からそう遠くない場所にある現実から目を逸らすために作られた繁華街は今やコロナの温床のような扱いを受けているし、気の滅入らない目のやり場なんて最早この世には存在しないのかもしれない。 米の人種問題を扱った映画は数多あって、近年興行的に成功したものだけでも「グリーンブック」や「ブラック・クランズマン」「ゲット・アウト」「ムーンライト」「SELMA(邦題がまたややこしいやつでグローリー/明日への行進という。地名はそのままでいいんじゃないだろうか)」と傑作揃いだ。どれも分断が単純ではなく、マイノリティの中のマイノリティや大まかに分ければ同じ陣営と思われるものの中でのさらに苛烈な差別構造、暴力や迫害の名を巧妙に剥がした根強い差別感情などが描かれる。人は単純な対立構造にも燃えはするけれど、味方の裏切りや自分よりさらに弱い者を見つけて新たな対立の線を見つけると、それ以上に過熱して罵りあう。 「SELMA」でホワイトに撃たれるホワイトも、アフリカ系の中に居場所を見つけられない「グリーンブック」のエリートブラックも、肌の色とセクシャリティの双方でマジョリティから溢れる「ムーンライト」も、単純な敵味方構造の中にいられるならどんなに楽だっただろうと思うくらいに複雑な構造の狭間で心身に傷をつける。この辺りの構造は、フクシマ、ガザ地区、香港などを扱った今年公開のドキュメンタリー映画「わたしは分断を許さない」が詳しく描いている。外から見た分断ではないもっと細かくもっと残酷で露骨な分断をクローズアップして見えてくるのは、あまりに細切れになった世界と、しかし個人のレベルまで細やかに眼差してはもらえない世界で、今大きく対立している米国だって単純に南北や白黒に分けられないからこそ、最終的に傷がつけられるのは全体や権力ではなく個人なのだろうと陰鬱な気分になった。 分断の一つの解として私が思いつくのは、SF映画の金字塔として名高いドイツのサイレント映画「メトロポリス」である。淀川長治にして、これをパクった「スター・ウォーズ」の人造人間を見るとアメリカ人は全くヘタクソだと思う、と言わせた美しい女性の人造人間が出てくる、あれである。ドイツ映画の黄金期ってこんなに進んでたの? とサイエンスフィクションファンが全員溜飲を下げるあれでもある。資本主義批判にも見える内容は示唆的ではあるものの、エンタメSFの礎となった本作は単純な共産革命礼賛や階級批判の形をしてはいない。 フリッツ・ラングは高度に発展した未来の社会をビルに象徴させ、上層階に住む特権階級と、日々過酷な労働を強いられ、地下に押し込められる労働者階級の二極化を描いた。過酷で危険な労働をする者たちの命は安く、当然彼らの中にストライキの気運が生じるのだけど、支配者は、労働者たちに愛されるオピニオンリーダーのマリアを模した人造人間を使って彼らを混乱させ、なんとかコントロールしようと企む。そううまくはいかないのは、特権階級内に恨み合いがあったり、支配的な父に疑問を投げる息子がいたりするせいだ。 最終的にはロボットではなく血の通った人間が仲介者となって「上」と「下」の仲を取り持ち、メトロポリスは崩壊の一歩手前で踏みとどまる。救世主っぽい象徴が出てくるのは映画ならではだとは思うけど、「脳と手の媒介者は心でなくてはならない」「脳と手は間に心があって初めて理解できる」という作品内の言葉は、心に留めておくのにふさわしいものだと信じている。最も、「脳と手」だけではなく、「手と足」や「右脳と左脳」の媒介も結局心が担わなくてはいけないと付け加えたいけど。 1920年代の米高層ビル建設ラッシュにインスパイアされたフリッツ・ラングが資本主義への警笛として描いたとされる「100年後のディストピア」は、今観る私達にとって実はもう5年後とちょっとという時代なんであって、DVDパッケージの公開年を見た私は思わずゲッとなった。まさか自分が「メトロポリス」の摩天楼の中を生きていたなんてな。相手の事情などひとたまりも見えないほど分離した階級社会を描いたフリッツ・ラングが悲観的だったのか、それでも心の媒介で何かしらの向かう方向があるとした彼が楽観的だったのか、一言で答えるにはこの世はあまりに複雑だ。 でも、脳も手もまったく未発達で大して使い物にならないけど、立派な人間のハートだけはすでに持っている赤ちゃんで取り急ぎ世界平和を感じている私は、結構間違っていないんじゃないかと、再び「フルハウス」の世界に戻って行こうと思う。 ■鈴木涼美 1983年東京都生まれ。蟹座。2009年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。著書『AV女優の社会学』(青土社/13年6月刊)は、小熊英二さん&北田暁大さん強力推薦、「紀伊國屋じんぶん大賞2013 読者とえらぶ人文書ベスト30」にもランクインし話題に。夜のおねえさんから転じて昼のおねえさんになるも、いまいちうまくいってはいない。
"幸運な" - Google ニュース
June 12, 2020 at 05:05PM
https://ift.tt/2YvFVpt
赤ちゃんで世界平和を感じるワケ~メトロポリス|夜のオネエサン@文化系(幻冬舎plus) - Yahoo!ニュース
"幸運な" - Google ニュース
https://ift.tt/2qurWmU
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
Anda sekarang membaca artikel berita 赤ちゃんで世界平和を感じるワケ~メトロポリス|夜のオネエサン@文化系(幻冬舎plus) - Yahoo!ニュース dengan alamat link https://padosberita.blogspot.com/2020/06/plus-yahoo.html