自分らしさを隠すのを、やめる時機が到来した | 視点 - Campaign Japan

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新しい仕事やプロジェクトを開始する、新しい上司に会う、新しいオーディエンスの前で講演をする――。どんな自信家にとっても、このような場面では自分自身を問い直すものだ。何か隠したいことがある場合には、なおさらだろう。それが同僚たちにとってどの程度の負荷になるか、それを軽減するために自分には何ができるかを、明らかにすることが大切だ。

私がここで言っているのは、重大な秘密のことではない。さまざまな理由から「隠しておくように」と社会の圧力を感じるような、パーソナルでシンプルな情報のことだ。たとえばシングルマザー/シングルファーザーであるとか、敬虔な信者であるとか、自身のアクセントや文化のこと、目に見えない障害を抱えている、あるいは同性愛者であるとか……挙げればきりがない。どれも全く恥ずかしいことではないのだが、だからといって、これらを隠そうと思わせるような見えない圧力が、無いわけでもない。周りに合わせなければ仲間外れにされるのではないか、チャンスを逃すのではないかと不安を感じるのだ。

隠してしまうと、あらゆることが少し複雑になってしまう。私は男性同性愛者なので、プライベートについての質問を受けるたび、予期せぬ小さな意思決定を迫られることとなる。週末に何をしていたかと聞かれたら、ボーイフレンドと一緒にいたと答えるのか? 結婚しているか、子どもはいるかと聞かれたら、「犬しかいない」と笑って答えるのか? 婚約していて「フィアンセ」がいると言って、全ての質問をかわしてしまうのか?

私は世界広告主連盟(WFA)のグローバル・ダイバーシティ・アンバサダーで、このテーマについて普段から語っているが、そんな私でも思いとどまる瞬間がある。理由の一つには、グローバル企業で働いていることが挙げられる。同性愛について、私とは全く異なる意見を持つ可能性がある国の人々と、話す機会が多くあるためだ(万人が肯定的だとは限らない)。

幸運なことに私はこれまでのキャリアの中で、ホモフォビア(同性愛嫌悪)に直面したことは一度もない(だが見たことはある)。それでも、このような場面をなんとか切り抜けることが、たびたびある。だからこそ、その真逆のことをして、あえて自分から言うようにしている。職場でカミングアウトしている人やアライ(性的マイノリティを理解し支援する人)の存在によって、自分らしくいられるようになることを、私自身が経験しているからだ。それに私は白人で中流階級の、高学歴な英語ネイティブスピーカーなので、不公平なほど多くの特権を享受しており、性的指向を隠す必要があまり無い。他の立場に置かれた人が同じことをするのは、はるかに困難だろう。

ストーンウォール(LGBT関連の英慈善団体)の調査によると学生の62%が、たとえプライベートでようやくカミングアウトできたとしても、就職後にクローゼット(カミングアウトしていない状態)に戻るという。ほとんどの人間が何かを隠して生きているものではあるが、これには何か喜ばしい、素敵な意味合いがあるのかもしれない。我々は今、ダイバーシティを取り巻く議論の重大な局面に立っている。「隠すこと」を理解することは、前進のためのステップなのだ。

もしあなたの同僚が何かを隠さねばならないならば、彼らはなんとか無難にやり過ごすことに精神や創造力を消耗してしまっている。すると能動的に参加して貢献しようという意欲を妨げ、メンタルの不調にも直接的に影響する。もし社員全員が同じように考えて、同じような行動をするようにと意図せず強いてしまうと、結局は従業員のダイバーシティからは何も得られなくなる。

もし、何か隠したいと感じる側面があなたにあるとしても、厳しい職場環境を変えることはあなたの仕事ではない。徐々に変えていくことはできないと考えてしまうのも、もっともな話だ。それが単なる妄想ではないことは、残念ながら非常に多い。ずいぶんと肩の荷が下りるかもしれないので、職場でもっと自分らしく振る舞ったり、せめて同僚に話し始めてみてはいかがだろうか。自分らしくいられる職場文化作りを、周りの人々に促す前に、まずは自分から行うのだ。

もしもあなたが幹部職に就いているならば、これを声高に、目立つように実践してもらいたい。またオフィスに出社するようになったら、子どもを迎えに行くから早く退社すると明言したり、同性パートナーのことを話したり、変わった一面をもっと明かしてほしい。誰もがそういう経験をしているのだという事実を肯定的にロールモデリングすると、チーム全体にそのような雰囲気が醸成されるのだ。

昨今のダイバーシティの話題にどう関与してよいのかと迷っているストレート(異性愛)の白人男性も、できることがある。「子どもを迎えに行く」と声高に言いながら退社するのだ。周りの人に理解と思いやりの姿勢を示し、陰口を聞いたら(あるいは参加したいと思ったら)それを断ち切ることだ。

多くの同僚が何かを隠すということに気付くことが、同僚をもっと深く理解して協働するための最初のステップだ。リーダーはこのトピックをきちんと認識し、議題に取り上げ、さらにはどう扱えばよいのかを従業員に教える必要がある。組織内の仕組みを見直し、ダイバーシティ&インクルージョンを阻むものがないか確認しよう。「社風に合う」人材を採用しようとするのは、単に似たような人を探しているだけではないのかと自問しよう。

私が友人や家族にカミングアウトしてから初めての職場となるキャドバリーで、働き始めてから10年が経つ。その頃のことで思い出すのは、ファロンの昔のオフィスの近くで、アリソンとルパルという新しい同僚たちと昼食をとっていたときのこと。週末に何をしていたかという話題になり、ボーイフレンドと過ごしたと勇気を振り絞って伝えた時、安堵のため息が出た。自分が思っていたほどにはストレートらしくなかったと知ってショックを受けたものの、それを乗り越えた後は「自分らしくあっていいのだ」とすぐに気が楽になった。隠しておきたいと多くの人が思ってしまうのは、どんな反応をされるのだろうかという恐怖心や、補足の説明を次々と求められそうだという気苦労によるものなのだ。

WFAはベリンダ・スミス氏と素晴らしいチームメンバーと共に、広告業界に具体的な変化が現れるまで、この話題を取り上げ続けるよう努めていく。私たちは最近『ダイバーシティ&インクルージョンへのアプローチガイド(Approach to Diversity & Inclusion Guide)』をまとめ、ダイバーシティ&インクルージョンコミュニティーと活動的なタスクフォースを作るなど、業界を前進させるべく邁進している。

広告業界のダイバーシティを成し遂げるまで、道のりはまだ長い。やがて、設定したダイバーシティの目標を達成する時期は訪れるだろう。それでも、我々が何かを隠そうと思わなくなるまでは、本当にインクルーシブになったとはいえない。今目の前にあるダイバーシティのテーマに取り組み、あらゆる人が自分らしくいられるよう機会を与えることができれば、ビジネスに多くの利益がもたらされ、人々ももっとキャリアを積んでいくことができるのだ。

ジェリー・デイキン氏は、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケアのEMEA担当シニアメディアディレクター。世界広告主連盟(WFA)のダイバーシティ・アンバサダー、アウトバタイジング(Outvertising)のコマーシャルディレクターも務める。

(文:ジェリー・デイキン、翻訳・編集:田崎亮子)

 

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